ロケットの打ち上げを自分のお目めで見に行こうツアー
M-Vロケット7号機編
<Part-4>
   
   
ロケットが見えなくなると、一般見学席の人波はやれやれと素早く撤収する人たちと、余韻を楽しむようにいつまでも残っている人たちの二手に分かれました。

真上を向いていた山の上のパラボラアンテナがいつのまにか水平線近くを見ています。あの視線の先にM-Vがいるはず。打ち上げからわずか10分後、早くも人が半分以下になった一般見学席に「衛星分離を確認」のアナウンスが流れ、拍手が起こりました。
   
動き始めた車の列に乗って見学所を後にします。

「今日のうちにM台地に一般の見物でも入れるようになるんですか?やっぱり今日は立ち入り禁止ですか?」

宇宙センターの入口でとりあえず聞くだけ聞いてみると

「もう入れますよ」

あっけらかんとした返事。
・・・えっ?まだ打ち上げから1時間経ってないんですけど??
聞いたこっちが何故か慌ててしまうほど。
恐る恐るM台地に通じる門をくぐってなだらかな坂道を降りていきます。
「!!!」

目の前に、本当に目の前に、M-Vが収まっていた組立棟とついさっきM-Vが飛び立っていったランチャがそのままの角度でそびえていました。

「いいの? もうこんなとこ来ちゃっていいの??」

ロケットの燃焼ガスに含まれる塩素成分の残り香が少し鼻を突く中を、どんどん先へ歩いていけます。
本当にどこまで行っていいのと思うくらいすぐ近くまで寄ることができて、しかもようやく現れたフェンスはこの有様・・・。よく見るとつっかい棒がしてあったりして、聞けば毎回立てては毎回ロケットの爆風で倒れるらしいです。まぁたしかに倒れないフェンスをあつらえるより、どこにでもあるフェンスを毎回壊ししては直ししているほうが安い気もしますね・・・。見物人に大人気でみんな記念写真を撮りまくっていました(笑)
ランチャの台座部分。
M-Vロケットのノズルから毎秒1トン、秒速2500メートルの高速で噴き出される2500℃の高温ガスををまともに受けて海のほうに逸らせるコンクリート壁には、ノズルの形にくっきりと焼かれた痕が残っていました。
ランチャの角度を傾けるアームの根元には、アームに直結した針で角度を示す巨大分度器みたいなもの(大きさはひとつ上の写真で人と比べてみてください)が付いていて、打ち上げ角度82度を示していました(ちょびっとずれているのはご愛嬌。たぶんこれで角度を決めているのではなくて操作のときなどの目安なのでしょうね)。
あんまり近くて、全景を収めるためには後ずさりしないといけないほど。
M-Vが滑っていったランチャのレールは黒くすすけ、先ほどのノズル型の焼け跡とともに固体ロケット打ち上げの凄まじさを感じさせてくれます。ついさっき打ち上げをこの目で見たばかりで、オレンジ色の輝きがまだ目に焼きついているうちなのでなおさらです。
海に向かった発射台。
「これで役目を終わるのは嫌だよ」
そう聞こえた気がしました。
組立棟の横に寝ているのはM-Vの実物大モデル。
ただの模型ではなくて、M-V開発のときの地上テスト用の機体でほとんど実物と聞いていたのでよく見てみると、たしかにフェアリングがパカっと2つに割れるときにガイドするヒンジだとか点検用の蓋だとか、模型ではそこまで作り込みそうにないものが付いています。これが地上に残るただ1機のM-V。維持は大変でしょうけど、どうかずっと綺麗に保存されてくれることを願います。

あまりに面白すぎて、結局M台地だけで1時間以上過ごしてしまいました。
小さな組織、それも研究所を母体とする所以か、なんともおおらかに見物人も受け入れてくれる感じの内之浦宇宙センター。種子島とはまた違った趣で楽しい場所でした。本当にいい打ち上げ体験でした。

ここからまた、Mロケットの血を継ぐ全段固体のロケットが空に駆け上がっていきますように。
おしまい