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谷山港で飛鳥2の出航を見送って、天文館で夕食&しろくまを食べて、桜島温泉に浸かって、深夜0時前に宇宙センターの一般見物席に戻ると様子が一変していました。
わずかな街灯の光におぼろげに浮かぶ人、人、人・・・。車、車、車・・・。
決して広くはない駐車場に少しでも多く止めるため、わざわざ係の方がいてフェリーに車を載せるときのように隙間なく整然と並んで駐車するよう誘導していました。前の車に続いて止めるとすぐに後ろも横も車で固められ、もう打ち上げを見届けるまでは車を動かすこともできません。
見学席は駐車場から登っていく芝生の斜面とその上の平らな部分がありますが、もうどちらも人と三脚がずらり。打ち上げまでまだ6時間ある真夜中だというのに・・・。後で聞いたところでは、僕らが下見をした数時間後にはすごい勢いで人が集まり三脚が並び始めたとか。
昼間に余裕で確保した場所が人ごみの中で無事に空間を空けているのを確認して、しばらく車の中で休みました。見物席に設置されたスピーカーからは宇宙センターの場内放送がそのまま流れてきています。
「Xマイナス6時間。定時の項、入ります」
打ち上げ6時間前を告げる定時放送。
「ランチャ班は●●の作業完了しております」
作業が着々と進んでいることがうかがえるアナウンス。
(ひとつもメモを取らなかったのが悔やまれます・・・)
「衛星班の●●先生、(内線)××××までご連絡ください」
「△△班はRGをナントカカントカ・・・」
もうどこの誰の話なのか何の話なのかわからないアナウンス。
暗闇の中、秘密基地で進められている作業が漏れ聞こえてくるような気分になります。
「ロケット班はフェアリングアクセスドアをクローズしてください」
正確になんと言っていたのか覚えていないのですが午前2時過ぎ、ロケット先端のフェアリングに納められた衛星の準備がすべて終了し、最後に残っていた点検用の蓋を閉じる作業に入る指示が出されました。ロケットが間違いなく打ち上げに向けて進んでいることを初めて実感できた瞬間でした。
一方そのころ、駐車場では誘導員の方のこんな声が聞こえていました。
「駐車場は満車になりました。この先の国道に左側に寄せて駐車していただきます。2〜3キロ先に係員がおりますのでその誘導に従ってください」
2〜3キロて・・・。車を止めてここまで来るのに30分以上歩かなあかんがな。
「Xマイナス4時間。定時の項、入ります」
ロケットが姿を現すのは打ち上げの3時間前ごろのはず。
そろそろ行くか、とカメラを抱えて見学席に上がりました。
遠く小笠原のほうにある台風の影響か、発射台のほうを向くとほぼ正面からわりと強い風が吹いてきています。震えるほどではありませんが何時間も吹きさらしで油断していると風邪をひいてしまいそう。 |
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「Xマイナス3時間。定時の項、入ります」
「組立棟大扉開放します」
闇の中にライトアップされた組立棟。その扉がゆっくりと開くのが見えました。 |
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「ランチャ旋回、開始します」
「さあ来るぞ!」
ファインダーを覗き込んでその瞬間を見逃さないよう集中します。
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オレンジ色のランチャに背負われてM-Vロケットが姿を見せました。
3キロ先に見えるのは補助ロケットも翼も付いていないそっけないエンピツ型の物体。
なのに、あまりにも美しくて目が離せませんでした。
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ランチャの方位が定まると、次は海に向けて少し角度がつけられます。
日本初の人工衛星「おおすみ」を打ち上げたとき、ランチャを絶妙に傾けて打ち上げられたロケットは、上昇しながらだんだん姿勢が倒れてきて地球の丸みに沿った方向に向きを変え、”自然に”地球を回る軌道に乗るという神業のような方法がとられました。
今ではロケットは自ら姿勢をコントロールしながら飛んでいけるので垂直の打ち上げでも構わないところ、少しでも安全なようにと海に向けてあるという程度の理由なんだそうですが、この斜め発射は宇宙研伝統の打ち上げ姿勢というわけです。
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ロケットの背後、暗闇に溶けた山の稜線の上には大小のパラボラアンテナが空を向いています。ロケットがこれから飛んでいく宇宙への道をじっと見守っているようです。
ランチャの角度がセットされた午前4時過ぎ、収まらない風に加えて雨が降り出してしまいました。身動きのできない見学所でみんな退避することもできず、折りたたみ傘やタオルでなんとか雨風をしのぎながらじっと耐えます。
雨はやむんだろうか。打ち上げは大丈夫なんだろうか・・・。
そんな中、流れた放送に見学席がどよめきました。。 |
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